という方に向けた本をご紹介。
会計士が「株式価値評価」を知りたいと思った時に読む本【厳選5冊】
「M&A」が普通になってきている昨今、クライアントはM&Aの経験をどんどん積んでいます。
が、監査人は、M&Aの経験、特に、株式価値評価業務の経験を積むことは難しいのが実情だと思います。
なぜなら、監査法人にいる以上、自己監査になるので、株式価値評価業務をやらない(やれない)から。
でも、そんなこと関係なくクライアントは、M&Aをしちゃうわけです。
しちゃったら、経験がない中でも株式価値評価業務を理解した上で、監査をしなければなりません。
そのために、学びたいけど、どうすればいいのか悩んでいる方のための本を5冊紹介していきます。
1:株式価値の算定方法を理解するための本
『企業価値評価の実務』
編:株式会社 プルータス・コンサルティング
質問です。
FCF(Free Cash Flow)の計算式、言えますか?
突然何?と思った方。
まずは、どうやって株式価値を算定しているのかを知ることが最初のステップになると思います。
念のため:計算式を言えたか否かがポイントなのではなく、なぜその質問をしているのかピンとこなかった方こそ読んでもらいたい本(計算式を言えなかった方は当然、勉強が必要ですが・・・)。
なんで最初にFCFの計算式の質問をしたかというと、株式価値算定のメインの手法であるDCF法が、FCFの計算式に基づいているから。
で、この算定式といつも見ているF/Sとの関係を理解するのが、最初の関門なのです。
監査人は、どうしても勘定科目ベースでみちゃう癖があると思います。
でもM&Aの世界では、運転資本、設備投資、有利子負債とFCFの計算式をリンクさせて捉えていくので、まずはFCFとお友達になる必要があるのです。
で、それを可能にしてくれる本がこちら。
この本はQ&A形式で記載している本で、特にDCF法に関するQが、ナイスポイントなのです。
なぜなら、最初にみんなが思う疑問点をしっかりキャッチしてくれているから。
・運転資本の増減
・永久成長率
・割引率
・期央主義 ・・・etc
株式価値算定には色々な手法があり、本にも色々掲載されています。
が、焦らず、まずはDCF法をしっかり理解するところから始めるのがいいと思います。
なぜなら、皆さんが見る株式価値算定書には、DCF法が必ずと言っていいほど使われているので、DCF法を理解するのが効率的なのです。
是非、FCFをお友達にしてみてください。新たな視野が広がりますよ。
2:会計とファイナンスを結びつけるための本
『コーポレートファイナンス 戦略と実践』
著:田中慎一、保田隆明
株式価値の算定方法が分かった後、多くの人の気持ちが、本に記載されていたので引用します。
「本で理解しても実務で使えるようになった気がしない」
です。
で、この原因の一つは、
株式価値の算定の説明って、「不特定多数の企業」に当てはまる抽象化された「知識」としての説明
だからかなと思っています。
実際は、「特定の企業」を算定するわけです。
で、企業というのは人間と同じで、性格・特徴があります。
本書では、それを「キャラクター」と呼んでいますが、まさにそのキャラクターを浮き彫りにしていくことで、F/Sの数値に血が通ってくるのです。
そのキャラクター分析のお作法がこの本には記載されています。
まさに、会計士試験にあった、財務分析で算出した指標をどうやって活かしていくのかがわかる本。
本書で力点を置いている、「超実践的」の意味は、まさにここにあるんだと思います。
これは私の感覚ですが、
血の通った数値と「知識」を結びつけていくことで、実務として使えている感覚が養われていく
のかなと思っています。
このF/Sの数値にキャラクターの個性を通わせる感覚は、「会計知識」と「F/S」を結びつけるのと同じように、非常に重要だと思うので、是非その感覚を養ってはいかがでしょうか。
3:裁判の視点を知る本
『バリュエーションの理論と実務』
編著:鈴木一功・田中亘
質問です。
なぜ企業は株式価値の算定を、アドバイザーにお願いすると思いますか?
そりゃ、いくらで売買すればいいか、わからないからだろ!!
と、ごもっともな回答がきそうですが、それは、その通りです。
では、もう一つ質問です。
なぜ価格がわからないと、アドバイザーにお願いするのでしょうか?
これも、色々な意見がありそうですが、おそらくほとんどの意見が
「善管注意義務」を果たすため
に繋がるのではないでしょうか。
仮に、善管注意義務違反をしていたら、どうなるかわかりますよね。
株主等から訴えられ、裁判になる可能性があるのです。
で、今更ですけど、不思議に思いませんでした?
なんで、株式価値評価って、こんなに理論が確立されているの?って。
その理由の一つが、色々な裁判を経て、様々な議論がなされてきているから。
で、そこで争われた争点こそ、株式価値算定の留意すべきポイントになるわけですよ。
いままでの知識を、裁判という視点から、より深めてくれる本がこちら。
著者の一人 田中亘氏を見て、法律関係かなとピンと来た方もいるかもしれませんね。「会社法」の著者になります。
4:ドキュメンタリーから企業価値を学ぶ本
『 企業価値経営』
著:伊藤 邦雄
著者を見た瞬間に、わかってしまったかもしれませんね。
そう「伊藤レポート」の伊藤先生です。
「人材版伊藤レポート2.0」については、↓で簡単に解説しているので、知りたい方はこちらをどうぞ。
ということは、ESG・非財務情報の考え方を学ぶことができる本なんでしょと思った方
まーそれもそうなのですが、この本は3部構成で、私的に読んでほしい箇所は、「第Ⅲ部 創造編」なんです。
理論とか、算定式とか書いてあるお堅そうな本の中に、約100ページにもわたってドキュメンタリーのストーリーが書かれております。
まず第Ⅲ部を読んで、わからないことがあれば、第Ⅰ部と第Ⅱ部で調べていく感じがいいと思ってます。
なぜか、理由は2つ。
①M&Aが企業価値向上のイチ手段であることを、認識させてくれる
株式価値の勉強をしているとM&Aのことしか見えなくなっていることがあります(経験者は語る)が、実際は、企業は、企業価値向上のために様々なことをしているわけです。
このストーリーを読むと、その企業価値向上のイチ手段としてM&Aがあるという、大局的な視点(森)に戻れ、一方で具体的な手続きの視点(木)があるという森と木の位置を再認識できると思います。
②企業で起きていることをイメージしながら、企業価値向上について考えることができる
このストーリー、実際の現場で起きていそうなことが目白押しで、色々なことを考えさせてくれるのよ。
(例)
・株主からの提案
・株主とのトップ会談
・現状分析
・M&A
・選択と集中
・マテリアリティの抽出・・・etc
なので、M&Aの実際の現場がイメージしやすいのです。
特に監査人というのは、監査人である以上M&Aの現場を体験することはできません。なので、その現場をどれだけ想像できるかで、監査の質は雲泥の差が生じると思っています。
それを、株式価値の勉強を通じて学べる貴重な1冊だと思うので、第Ⅲ編だけでも読んで見ることをおすすめします。
言うまでもないですが、伊藤先生の本ですから、非財務情報に関する視点も併せて勉強できる点はもちろんになります。
この本を見ていただくとわかりますが、第Ⅰ部・第Ⅱ部も、やはり大学の教授なんだなと思わせてくれる、リアルな企業に基づく分析の嵐。さすがです。
是非、どうぞ。
5:ローンという視点を知る本
『M&Aファイナンス』
著: 笹山幸嗣・村岡加奈子
いままで株式価値の算定に注目して見てきましたが、漏れやすい視点が一つあります。
それが、「資金調達」の視点です。
当たり前ですが、いままで勉強して算定した株式価値に基づいて対価(資金)を払うわけです。
なので、その資金をどうするのかはセットで考える必要があるのです。
ではここで質問です。
ローンって勉強したことあります?
また、いきなりどうした?
って感じですが、個人的な感覚として、金融事業部とかにいないとローンについては学びにくいんじゃないかなと思っています。
なぜなら監査上、運転資金としての借入は、通常コーポレートローンぐらいしかでてこないから。
でも、多額になりやすい投資(M&A)をする際には、色々なローンが出てきちゃうわけです。
著者の笹山氏が当時代表取締役をしていた、メザニンという会社、完全にメザニン・ファイナンスのメザニンですね。
メザニン?
と思った方、そういうときに使うのが、この本ということです。
ローンという視点でM&Aを見ていくとどうなるのか知りたい方、是非。
この本は第2版が2008年発売で、事例とかは古めな感じですが、書いてあることは今でも通じると思います。
最後に
今回は「株式価値評価」を勉強したいという方向けに本を紹介してきました。
実際、株式価値評価業務に携わっていない監査人は、イメージしにくい分、株式価値評価を学ぶのは難しいとは思っていますが・・・
今回紹介した本を駆使すれば、ある程度イメージしながら学べるんではないかとも自負していますので、是非使って勉強してみてください。
頑張るかどうかは、下記をイメージしてから決めてみてください。
監査中に、クライアントから突然M&Aの相談がきました
あなたは、どうどうと(不安なく)クライアントと会話できているでしょうか?
レッツ、スタディ‼
【厳選5冊】
(参考)
(関連リンク)