の疑問にお答えいたします。
会計士が「開示」に強くなりたいと思った時に読んでみるといい本【5冊】
分かっていると思いますが、クライアントは、皆さんがチェックしている有価証券報告書(以下、有報)だけを開示しているわけではないですよね。
そう、有報以外にも「開示」の世界があるわけです。
そもそも「開示」に強くなるっていう意味が曖昧なので、
単純だけど、「開示」をブレイクダウンして、「有報」と「それ以外」と捉えてイメージしてみてはどうでしょう。
・「有報」⇒日頃から業務で見ているので、知識を「深堀」するイメージ
・「それ以外」⇒普段目にしていない情報なので、知識を「幅広く」得るイメージ
ということで、「有報」と「その以外」と捉えて、以下の本を紹介していきます。
- (それ以外)【適時開示を知る本】株式投資に活かす適時開示―伸びる会社はこれでわかる
- (それ以外)【CG報告書を知る本】2021年改訂コーポレートガバナンス・コードの実務対応
- (それ以外)【統合報告書を知る本】SDGs・ESGを導くCVO(チーフ・バリュー・オフィサー): 次世代CFOの要件
- (有報)【XBRLを知る本】
- (有報)【TCFD提言を知る本】TCFD開示の実務ガイドブック
「有報」からじゃないの?と思ったかもしれないですが、はい、「それ以外」からでお願いしやす。
なぜなら、監査人としてチェックをしない「開示」については、深堀するより、他にどんな開示があるのかを知っている方がまずやるべきことだと思います。
そして、なにより、この記事の本当の目的は、「開示」に関する視野を広げることで、クライアントと「開示」の話になっても、辱めを受けないようにすることにあるからですw
では、紹介していきますね。
1:適時開示を知る本
『株式投資に活かす適時開示―伸びる会社はこれでわかる』
著:鈴木 広樹
いきなりですが、質問です。
・適時開示って知ってますか?
・クライアントの適時開示はチェックしていますか?
・チェックしている適時開示が、決定事実、発生事実、決算情報どれにあたるのか理解していますか?
「適時開示」という言葉を知っていても、クライアントが開示している適時開示をチェックしていなかったり、決定事実・発生事実という言葉を知らなかった方もいるかと。
その理由は、そもそも適時開示って何なのか、その重要性をあまり理解していないからだと思います。
恥ずかしながら、私も監査3年目ぐらいまで、適時開示を知らなかったので、(当然ながら)クライアントの適時開示は見ていませんでした・・・
でもこれ、私だけではないような気がします。
そもそも、適時開示について、知らなければ、見るという発想にならないから。
さっきの質問に、自信をもって「はい」と答えられなかった方は、是非こちらの本で学んでください。
で、適時開示がなんなのかを理解するためだけに、この本を紹介したわけではありません。
この本は、投資家が企業の姿をとらえるために、どのように有報を読むべきか、どのように適時開示で、企業の動きを捉えていくのかをアドバイスしてくれている本です。
つまり、投資家がどのように有報と適時開示を見ているのかを学べる本なのです。
有報の正確性に目が行きがちな監査人に、開示の本当の意味を理解させてくれる、良本です。
最後に、著者は述べています。
ディスクロージャーを読むことによって、会社の能力と性格がわかり、成長する可能性が高いか低いかがわかります。
会社の能力と性格を理解できる会計士になってみてはいかがでしょう。
2:CG報告書を知る本
『 コーポレートガバナンス・コードの実務対応』
著:PwCあらた有限責任監査法人コーポレートガバナンス強化支援チーム
そもそも。コーポレート・ガバナンス報告書(以下CG報告書)ってご存じですか?
知らない人からすると、なにそれ‼って感じですよね…
実はこの報告書も、有価証券報告と同様、TDnetを通じて、開示されている報告書。
つまり、上場企業は、必ず開示が必要な報告書なのです。
そして、なにより、CG報告書に記載されている内容の一部が、有価証券報告書にも記載されているのが通常です。なので、監査人としては、知っておかないと恥ずかしいことに。
じゃあ、何を学べばいいのか。
①開示原則を定めている、CG・コードとは何なのか
②CG・コードは、2015年に導入されて以降、2回改定されているので、改定箇所はもちろん、過去の経緯も併せて学ぶ必要あり
③CG・コードを実践するための4つの実務指針が開示されているので、管轄している経済産業省の動きについても知っておくべき
これを見ると、学ばなきゃいけないことが沢山ある~と思うかもしれませんね。
安心してください。
これをまとめてくれているのか、こちらの本。この本、非常にわかりやすい文章で、かつそこまで量がないので、サクッと読めちゃうと思います。
しかも、海外(イギリス・フランス・ドイツ)のCG・コードとの比較もあり、CG・コードについて知見を広げられる1冊です。
是非、こちらで、CGコードの理解を深めてみてください。
3:統合報告書を知る本
『SDGs・ESGを導くCVO(チーフ・バリュー・オフィサー): 次世代CFOの要件』
著:マーヴィン・キング, ジル・アトキンス
企業の良し悪しの判断が、財務数値のみではなく、ESGやSDGsなど企業の活動自体に注目が集まっていることは、十分ご認識されていることでしょう。
それにより、財務情報以外の非財務情報の重要性が高まってきております。
突然ですが、皆さん
「統合報告書」の「統合」ってどういう意味かわかります?
この答えを理解するためには、この文章を理解する必要があります。
「企業は、内部の資源と、外部環境を利用して、企業価値を創造しています。」
えっ、いきなり何?って感じですよね。
しかも、わかるようで、わからない文章ですよね、これ(笑)。
そんな時は、具体例を。
例えば、サプライチェーンの中で企業に供給された製品が児童労働によるものであることが判明したとしたら、企業の時価総額に悪影響を及ぼすであろう。
この例を見ればわかる通り、製品の製造過程の中で、一部外注していた場合、その外部環境(外注先)の影響を受けていますよね。
これが、内部の資源と、外部環境を利用して、企業価値が創造されているという意味であり、統合的思考と言われているものです。
で、その企業価値をどのように、短・中・長期的に創造していくのかを記載しているのが、「統合報告書」。
財務情報以外の情報の重要性が高まっている以上、会計士としても学ぶべき視点であり、また、これからの時代の会計士がどのような役割を示していくべきなのかを示唆していくれている本が、こちら。
著者は、国際統合報告評議会(IIRC)名誉議長マーヴィン・キング博士で、彼の「統合的思考」に対する考え方が載っています。この、統合的思考の根底の考え方を理解することで、今見ている財務情報がより俯瞰的に捉えらるようになると思います。
是非、非財務情報という異なる視点に触れてみてはいかがでしょうか。
4:XBRLを見つけるための本
『 会計人のためのXBRL入門』
著:坂上 学
会計士なら、XBRLは知っていると思います。
そう、EDINETに有報を提出する際に設定する、財務諸表の形式です。
形式といっても、目で見える表面的な形式ではなく、その形式を定めている裏側のデータ言語のこと。
監査人はXBRLのことがわからなくても、有報チェックはできちゃいます。
なぜなら、裏側だから。
そもそも、監査人自身が直接、有報をEDINETに提出する機会がないので、XBRLについて触れる・考える機会がないのです。
つまり、監査人は経験できない領域、しかし、経理の人達は知っている領域。なんとも、もどかしい領域なのです。
もちろん、監査人としてXBRLに精通している必要はないと思いますが、理解することで、経理の人達との情報格差をかなり埋めることはできるでしょう。
紹介する本は少し古いですが、XBRLを理解するという意味では、問題ありません。
なぜなら、著者の坂上氏は、XBRL Japan教育委員会委員長を2003年~2010年まで歴任され、XBRLの最前線にいた・いる方で、XBRLを誰よりも知っている方だから。
また、坂上氏は大学教授で、生徒に教えるようにわかりやすい文章で書いてくれていて、また、具体的にイメージできるように時々プログラミング言語のような記載も書いてくれています。ちなみに、それ自体を理解する必要はないのでご心配なく。
とにかく、理解してもらいたいために書いてくれているのがわかるような本。
XBRLってそもそもなんなんだ~というかた、是非どうぞ。
5:TCFD提言を知る本
『TCFD開示の実務ガイドブック: 気候変動リスクをどう伝えるか』
編集: KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン
さて皆さん
「TCFD」って何かご存じですか?
監査人の皆さんなら、当然知ってますね。
ドキッとした方、大丈夫です。ドキッとしたかは誰もわからないので、しれっと勉強しておけばいいのです。
TCFDとは、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)のことですね。
Memo
・2015年12月:金融安定化理事会(Financial Stability Board)にて設立されたタスクフォース
・2017年6月:気候関連の情報開示の枠組みを提言(以下、TCFD提言)
ちなみに、気候関連の情報開示の枠組みというのは、TCFD提言以外にも複数あるんですけど、
2021年1月に、ロンドン証券取引所の上場企業(プレミアム市場)は、TCFD提言に沿って情報を開示が義務化され、
日本では、821社がTCFD提言に賛同している状況(2022年4月25日時点)です(出典:TCFDコンソーシアム)。
賛同している=821社の企業は、当然ながら、すでにTCFD提言のことを学んだ上で、判断しています。
つまり、監査人も早く、TCFD提言を学ぶ必要があるのです。知らないのは、監査人だけということにならないように‼
で、このTCFD提言の内容をわかりやすくまとめてくれているのが、この本。
気候関連の情報について、何も知らなくても安心してください。その入り口を、整理してくれているのが、この本の、第Ⅰ部の理論編。
そして、当然ながら、有価証券報告書への影響・今の動向・実際の開示の仕方については、第二部の実務編で説明されています。
本の構成と文章が、総じてわかりやすい印象です。
TCFD提言の理解度を最初に上げるには、グッドな本です。
TCFDの基礎的知識については、下記記事で簡単に解説していますので参考にしてみてください。
ちなみに、TCFDについては、東洋経済(2022年1月)に面白い記事があったのであわせて紹介しておきます。
知ってました?「ソニー」と「アップル」の純資産の額ってほとんど同じ7兆円程度って。
でも、株価は?
ソニーは18兆円、アップルは330兆円 18倍も差が。。。
その差の要因は、非財務情報にあると(それだけじゃないような気もしますが・・・)。
TCFDのシナリオ分析が図解されていたり、業種別に各社(エーザ・丸井・キリンHD・伊藤忠商事・帝人・メガバンク3行)の事情が書いてあったり。
軽い気持ちで、さらっと読めるので、初めて気候変動について読む方は是非。
あとこのバックナンバーを紹介した理由がもう一つ。
監査法人のことが書いてあるからw
大手監査法人から中小監査法人に流出している話や、監査報酬ランキング、不正会計の歴史、監査法人のブラック度合いなど、会計士としては面白い記事が一緒に書いてあるので、読んで見てはいかが。
最後に
「開示」に強くなりたいという、皆さんの気持ちは、大事にした方がいいです。
他の人よりもわかっている自負こそが仕事をしていく上で重要だと思います。
とにかく騙されたと思って、この中の一つでも、レベルを上げてみてください。
驚くと思いますよ。実は、分っていない会計士が多いことにw
是非、頑張って‼
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