など、今更聞けないと思っている、疑問にお答えします。
↓こんな疑問にお答えします。
この記事の目次
Q1:そもそも、気候変動が騒がれている理由は?
皆さんもご存じの通り、地球温暖化は着々と進んでいる状況ですね。こちらは北極の写真。
こちらは、国立極地研究所が運営している北極域データアーカイブシステムの写真の比較です。
氷が少なくなる8月時期の写真を比較してみましたが、氷の面積が明らかに小さくなっているのがわかりますよね。
騒がれている根本の理由は、SDGsの13番目の目標にもなっている気候変動、特に地球温暖化を世界全体で食い止めようとしているから。
ただ、地球温暖化については、昔から言われてきたことで、2020年あたりから騒がれている主な理由は、
プライム市場に上場している上場企業は、気候変動リスクについて開示が義務化されたから。
今までは、各企業が自主的に行動していたけれど、開示の義務化に伴い、それに対応する動きが加速している状況なのです。
ちなみに、気候変動リスクの開示については、東京証券取引所が定める、コーポレート・ガバナンスコード(以下CGコード)補充原則3-1に規定されています。こちらの原則は、2021年の改定で追加された原則。
【補充原則3-1③】
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。
コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)補充原則3-1③
Memo:CGコードって何?
上場企業は、株主や機関投資家など投資家と「対話」することを求められています。
「対話」とは、価値観や社会における役割など、会社の考え方を投資家と共有すること。
その「対話」で投資家に開示してもらいたい事項を定めているのが、CGコードなのです。
ちなみに、CGコードは以下の構成になっています(2021年改正後)。
・基本原則:5項目
・原則 :31項目
・補充原則:47項目(←補充原則3-1はここに該当)
その他のコーポレート・ガバナンスコードについて詳しく知りたい方は、こちらの本がおすすめです。
Q2:TCFDとは?
TCFDとは、G20の要請で、金融安定理事会(FSB)が、気候関連の情報開示や金融機関の対応をどうするか検討するために設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)のこと。(委員長:マイケル・ブルームバーグ氏)
このTCFDが提言した、気候関連の情報開示の枠組みのことを「TCFD提言」と呼んでいます。
ちなみに、タスクフォースとは、一時的に組成された組織のこと。
TCFD提言の日本語版はサステナビリティ日本フォーラムさんのHPをご参照ください。
・2015年12月:金融安定化理事会(Financial Stability Board)にて設立
・2017年6月:気候関連の情報開示の枠組みを提言(以下、TCFD提言)
Q3:開示が義務化されたっていうけど、どんな開示が必要なの?
TCFD提言を前提とすると、以下の4項目+11項目の開示が必要。
①ガバナンス | ②戦略 | ③リスク管理 | ④指標と目標 |
・気候関連のリスクと機会に対する取締役会の監督体制 |
・短・中・長期の気候関連リスクと機会 ・上記リスクと機会が、事業・戦略・財務計画等に与える影響 ・気候関連のシナリオを考慮した、戦略のレジリエンス |
・気候関連リスクの識別・評価プロセス ・気候関連リスクをマネジメントするプロセス ・上記プロセスと組織全体のリスクの統合状況 |
・評価指標 ・温室効果ガスの排出量と関連リスク ・目標とそれに対するパフォーマンス |
たぶん、これをみても、わかるようで、よくわからないですよね。。。
ポイントは、②の戦略です。
気候変動に関するリスクを特定して、気候変動のシナリオ別に、どんな経営戦略を想定しているのかです。
そして、それ以外のことは、経営戦略を達成するための、体制や、プロセス、目標値などが開示されていると捉えてみてください。
ちなみに、TCFD提言を前提と書いたけど・・・
枠組みって、実は複数あるんです。
例えば、TCFD提言、GRIスタンダード、IIRIフレームワーク、SASBスタンダード、価値競争ガイダンスなどなど。。。
色々ありますが、TCFD提言の理解が優先でいいと思います。理由は2つ。
・ロンドン市場のプレミアム市場では、2021年よりTCFD提言に沿って開示が義務化されていること
・TCFD提言に賛同している日本企業は日に日に増加していること(2022年4月25日時点で821社、出典:日本コンソーシアム)
Q4:実際どんな開示がされているんですか?
気候変動リスクについて参考にした方いいと思っている業界は、「商社」です。
なぜなら、エネルギー資源権益、電力事業、船舶事業等、気候変動の影響を受けやすい事業を多く展開しているから。
そこで、商社の3社のHPの記載項目を列挙してみました。。。
が、結論、各社のHPを直接見てもらった方が早いですw
【各社HPの簡易目次】
三菱商事 | ・外部環境 | ー |
・方針 | ー | |
・ガバナンス | ・ガバナンス ・戦略 ・リスク管理 ・指標と目標 |
|
・取り組み | ・低・脱炭素化事業 ・温室効果ガス排出削減活動 |
|
・外部との協働 | ・各種組織との協働 ・CDPへの参加 |
|
・パフォーマンスデータ | ・環境データ(単体) ・環境データ(連結) ・Scope1排出量(6.5ガスのみ)温室効果ガス別のデータ ・セグメント別排出量(単位:千t-CO₂e) ・第三者保証 |
|
・その他参考データ | ・石油・ガス上流持分生産量 ・LNGプロジェクト一覧 ・コジェネレーション事業 ・ガス火力発電事業 ・石炭火力発電事業 |
|
伊藤忠商事 |
・アクションプラン |
・各カンパニー別にSDGs目標・取り組む課題・事業分野・コミットメント・具体的なアプローチ・成果指標・進捗具合(レビュー)を記載 |
・方針・基本的な考え方 | ー | |
・ガバナンス | ー | |
・戦略 | ・気候変動関連のリスクと機会 ・シナリオ分析 ・既存の戦略への影響・今後の取組み |
|
・リスクマネジメント | ・気候変動リスクの特定 ・全社リスクマネジメント ・事業投資管理 |
|
三井物産 |
・方針基本的な考え方 |
・目標 ・排出削減(Reduction)と削減貢献(Opportunity & Transition) ・目標基準年GHG排出量内訳(2020年3月期) ・2030年GHGインパクト半減への道筋 |
・体制・システム | ・気候変動対応に関するガバナンス体制 ・社内カーボンプライシング制度導入 ・グリーン案件評価連絡会 ・気候変動対応に関する戦略とリスク管理 |
|
・ステークホルダーとの協働 | ・イニシアティブへの参画 | |
・取り組み | ・事業における取り組み ・環境関連ビジネス ・パフォーマンス |
各社のHPを実際見てもらえればわかったと思いますが、ボリュームがすごいのなんの。
なのでまず最初は、HPの全体を眺めるぐらいから初めて、なんとなく理解したあとに、戦略の部分について深堀していくのがいいと思います。
ちなみに、3社のHPを見てどう思いましたかね?
各社TCFD提言に賛同している企業なのに、記載の仕方がみんな違いますよね。
各社色があるので、HPを比較して、評価してみるのも面白いですよ
Q5:気候変動リスクが、財務諸表に与える影響ってあるんですか?
会計上の見積り、または注記に影響がありそうです。
気候変動リスクについて短期的な影響が合理的に見積りが可能なら、見積もりに反映させる必要があるし、中長期的に見積りが困難な場合でも、その内容について、注記する可能性があるから。
あとIFRS適用会社は、国際会計基準審議会(IASB)から「気候関連事項が財務諸表に与える影響」が公表されているので見ておいた方がいいです。
ちなみに、EYが日本語版を開示してくれているので、そちらのリンクを貼っておきますね。
【有価証券報告書への影響】
上記商社3社の2021年3月期の有価証券報告書にどこまで記載されていたかというと、実は、第2【事業の状況】2【事業等のリスク】に気候変動に関するリスクを記載しているぐらいで、HPに記載している内容ほど、具体的に記載はされていないです。
なので、具体的な記載内容を見るなら、各社HPを見た方がいいですね。
最後に一言
実際に紹介した各社のHPを見てもらった通り、Q2の項目がより詳細に記載されていますよね。
そうなのです。実際は、もっと細かい枠組みが定まっています。
本記事では、TCFDの初期的な疑問についてお伝えしているだけなので、TCFD提言をより詳しく知りたいという方は、気候関連財務情報開示タスクフォースの提言・付属書・技術的補足を見てみてください。
原文を読むは疲れるという方は、TCFD提言を整理してくれているこちらの本で学ぶのもありだと思います。是非どうぞ。
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