アジャイル・ガバナンスとは?【アジャイル・ガバナンスの概要と現状】


2022年8月8日に、経済産業省の「新たなガバナンスモデル検討会」より「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」が公表されたので、「アジャイル・ガバナンス・モデル」を簡単にまとめました。

こんな方におすすめ

・「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」について、サクッと知りたい方
・「アジャイル・ガバナンス・モデル」ってなにか知りたい方
・Society5.0の世界にむけて、すでに導入されているルールを知りたい方

 

注意

本記事には、Kazuの解釈が含まれている点ご承知おきください。

アジャイル・ガバナンスの概要と現状

2022年8月8日に、経済産業省の「新たなガバナンスモデル検討会」より「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」が公表されました。

レポートのリンクはこちら

実はアジャイル・ガバナンスについては、「新たなガバナンスモデル検討会」から、このレポート公表前にすでに2本のレポートが公表されてます。

えっ、じゃあこのレポートを先に読まないとダメ?と思った方。

ご心配なく。

この2本のレポート公表後、2本のレポートを一体的に理解したいという多くのリクエストがあったようで、その結果今回のレポート公表に至ってます。

つまり、多くの方が2本レポートを読んで、理解することが難しかったという点を考えると

アジャイル・ガバナンスについて知りたい方は、今回のレポートを読めばOK。

で、「アジャイル・ガバナンスの概要と現状」を以下の流れでまとめてみました。

①アジャイル・ガバナンス・モデルってなんなの?
②アジャイル・ガバナンス・モデルの世界(Before→After)
③いままでにない考え方
④どうやって実現するのよ?

アジャイル・ガバナンス・モデルってなんなの?

ソフトウェア開発の手法の一つに「アジャイル開発」という、小さな単位でトライアンドエラーを繰り返して開発していく手法があります。

そのイメージを、ガバナンスに取り入れたのが、「アジャイル・ガバナンス・モデル」。

ポイントは3つ‼

①スピード

②変化

③トライアンドエラー

①スピード

これからのデジタル社会は、短期間で環境が変化していく。

それに合わせてガバナンスも短期間で対応していく必要がある。

つまり、スピードが重要‼

ただ、スピード重視だと、最初から完璧なものは作れない。

だから”トライアンドエラー”を繰り返しながら、ガバナンスを”変化”させていく必要がある。

それが「アジャイル・ガバナンス・モデル」。

②変化

スピード重視なら、PDCAを高速で回すの?

それも重要。

ただ、PDCAモデルは、一度設定したPlanを守りながらサイクルを回す。

そこに「環境」変化を組み込んだのが、本モデル。通称「アジャイル・ガバナンス・サイクル」。

(出典:アジャイル・ガバナンスの概要と現状 図4)

内側のサイクルが、一般的なPDCAのようなもの、そこに外側のサイクルを追加し変化に対応させる。

Planの土台である「環境」の変化、それに伴う「ゴール」の変化もアップデートし、

そのアップデートに応じて、PDCAを回していく。

わざわざ、このモデルを提唱する理由は?

変化に応じてゴールをアップデートするって、当たり前のような気もするが、ガバナンスの世界では、そうでもないのが理由。

例えば、法律。

法律は、作成時点の時代背景をもとに作成され、変更するのに、ものすごい時間を必要とする。そのため実態として、環境が変わっても、多くが古い時代を前提としたルールのまま。

つまり、環境やゴールが変わっているのに、一度決めたPlanを変えることができていない一例。

③トライアンドエラー

今は、政府が決めたルールに沿って企業が行動している。

これからのルールは、トライアンドエラーを前提に作成される。

つまり、ルール作りの主体が、政府からトライアンドエラーをする企業側に移っている。

・・・

といわれても、よくわからないと思うので、アジャイル・ガバナンス・モデルが適用される前と後の世界を比較してみましょう。

アジャイル・ガバナンス・モデルの世界(Before→After)

このモデルは、各企業だけの話じゃなくて、社会全体で適用するモデル。

その点こそ、パラダイムシフトが必要なポイント。

イメージはこちら。

(出典:アジャイル・ガバナンスの概要と現状 図1・図2)

いままでは、「官」がルールを、業界別に規定して、そのルールを「民」が守っていくイメージ

これからは、「官・民」が、分野別だけじゃなく、横断的に連携して、協力しながら社会全体でガバナンスしていくイメージ

分野を超えて、連携しなきゃいけない理由は、Society5.0の世界では多くのデータが、つながっちゃうから。

例えば、Maas(Mobility as a Service)

Maasとは、公共交通を含めた、自家用車以外の全ての交通手段による移動を1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ移動の概念、またそれを目的としたサービスのこと

ウィキペディア

フィンランドの「Whim」というアプリがある。

このアプリに、目的地を入力すると、経路と料金が提案されて、必要な料金の決済まで可能。

提案される経路には、公共交通機関以外に、レンタカー、シェアサイクル、カーシェアまで含まれている。

つまりアプリの機能を分解すると、

①「身元確認」、②「マッチング」、③「決済」という機能に、④「運航」というサービスが接続しているイメージ。

さっき見た全体像でいうと、

④「運航」が分野別で、①身元確認、②マッチング、③決済は横断的な要素みないな感じ。

①~③の要素は、すべての分野と連携可能な内容。

つまり業界別に分けようとしても、利便性を考えたら勝手につながってしまう。

だから、横の連携が必要というわけ。

いままでにない考え方

Society5.0の世界(情報を連携していく世界)は、業界と業界がつながっている。

そんな世界では、いままでのように各業界のみのルールでは足りない

もっと広い視野のもと、ガバナンスの全体像を考えなければならない(ガバナンス オブ ガバナンス)

例えば個々のガバナンスの手法としては、以下のようなものがある

・技術(例:ブロックチェーン)
・ルール(例:法規制、自主規制)
・組織(例:企業、政府、官民連携組織)

各業界や団体、企業など個々に実施しているガバナンスの全体最適を考えた時に、どこに重きを置くのか、組み合わせるのか、それとも異なる手法を用いるのかなど、

全体像を考慮して、ガバナンス全体を構築していく必要があるのだ。

もしかしたら、今までにない、やり方でガバナンスの強化が可能かもしれないし、ステークホルダー同士が連携することで、規模の大きなガバナンスの実現が可能かもしれない

実は世界が変わっていく過渡期であるが故に、ガバナンスの世界にもイノベーションの可能性があるのだ。

どうやって実現するのよ?

ここまで読んいただいた方の大半が、でもどうやって、やるの?と思ったのではないだろうか。

私もその一人だ。

例えば、ルール作成の主体が、今後は政府から企業になるって、理解はできるけど実際どうやるのよ。

Before →Afterの図を思い出してほしいのだが、そもそも、いままでとは違う世界の話なのだ。

つまり、どうやるの?っていうか、新しい世界の環境を作るのだ。

ルール作成の主体になるということは、いままでの「政府の政策決定」に参加していくということ。

政府の政策決定に参加可能にする環境づくりが段階別(情報共有→規制設計→政策決定)に例示されている。

①「情報共有」:オープンデータの促進
②「規制設計」:規制のサンドボックス制度
③「政策決定」:Decidim
④「インセンティブ」:厳格責任制度(案)

①「情報共有」:オープンデータの促進

データカタログサイト」って知ってます?

実は、誰でも利用可能な公共データやその活用事例を公表しているサイト。

同じように公表データを公表しているサイトとして、東京オープンデータカタログサイトもある。

いままで政府が持っていたデータを共有することで、情報の格差を縮めているのだ。

で、共有された情報をもとに、サービスも多々開発されている。

最近では、メディウィルさんが、オープンデータである診療•検査医療機関一覧リストから、東京都発熱外来病院検索サービスを開始。

これは、かかりつけ医のいない若年層が発熱した際の課題を解消するために、現在地の近くで発熱外来がある医療機関を直感的に探せる病院検索サービス。

【MEDIWILL】かかりつけ医がいない若年層向け「東京都発熱外来病院検索サービス」リリースのお知らせ

ありがたいサービスである。

②「規制設計」:規制のサンドボックス制度

最近、電動キックボードのシェアリングを目にするようになりましたが、

電動キックボードを免許いらずで載れているのは、この規制のサンドボックス制度のおかげって知ってます?

現行のままだと、原付自動車扱いで、免許が必要だし、車道しか走れない。

そこで、既存の規制の適用なく、実証実験をしながら、情報を収集しながら、手軽な交通手段に向けて規制改革を推進することを可能にしている制度。

たとえば、Luupさん

Luupさんの、電動キックボードのシェアリング事業は、規制のサンドボックス制度の適用を受けて横浜国立大学常磐台キャンパス内の実証実験からスタートした事業。

いまでは、東京のいたるところに設置されるまでに、まだまだエリア拡大中のようだ。

③「政策決定」:Decidim(デシディム)

2020年3月に兵庫県加古市が国内で最初に導入した、Decidim(デシディム)って知ってます?

市民の意見を集めて、議論して、政策に結びつけるオンラインツール。

2016年にスペインのバルセロナで開発されたツールで、Decidimとは、カタルーニャ語の「我々で決める」という意味らしい。

また、2022年3月に岩手県釜石市も導入しており、今後も、導入地域が増えていきそうだ。

このオンラインでの政策導入で先を進んでいるのが、台湾

台湾でも同じようなプラットフォーム「vTaiwan」が導入されている。

台湾では、2019年7月に、店内飲食店でプラスチック製のストローの使用が法律で禁止されたのはご存じだろうか。

これは「vTaiwan」への投稿がきっかけ。

台湾のタピオカミルクティーは有名ですが、それによりプラスチックごみが増えることを危惧して提案したという。

そして、なによりそれを投稿したのは、当時16歳の高校生。

”参政権がない”一人の少女が、社会を変えている世界が、すぐそばの台湾にはあるのだ。

台湾のデジタル化ついて知りたい方は、こちらの本をどうぞ。


オードリー・タン氏は、さきほどの「vTaiwan」というプラットフォームを構築した一人。

そして、なんと中退とのこと。勉強は、すべてネットでしたという、異色の方。

どれだけ自分の頭が凝り固まっているのか、考えさせられる本。

その他にも、多くの例が本レポートには記載されている。そう、実は、Society5.0の世界に向けて、すでに色々やっているのだ。

④「インセンティブ」:厳格責任制度(案)

色々やっているとはいえ、ガバナンスを自主的に設計・実施している企業や個人は、まだまだ多くはない。

だから、そのように仕向けるインセンティブが必要。

そこで本レポートでは案として、「厳格責任制度」を提案していた。

厳格責任制度

厳格責任制度とは事前に想定可能な事故が発生した場合、当然に情報提供と被害補償を実施。想定不可能な事故の場合、情報提供、事故調査への協力や組織の改善を約束することを前提に訴追を延期、協力しなければ相当額の制裁金を課す制度

なかなか厳格な制度だ。

厳格化することで、不確実性の高い製品・サービスに対して想定されるリスクを、自主的に実施し、ガバナンスを強化するように仕向けるというのだ。

これはあくまで一例。厳しすぎるとイノベーションを阻害する可能性もある。

つまり、リスクとイノベーションのバランスを考慮しながら、規制・制裁・責任を一体で考える必要性について、これからのルール作成者は知っておく必要があることを示唆してくれている。

最後に

全体像を考えつつ、自主性を高まめるためのインセンティブをもとに、自主的にガバナンスを回し、そして見直していくことができるシステム、それが、アジャイル・ガバナンス・モデル。

まだない世界のガバナンスだからこそ、Society5.0の世界をイメージしながら、読むと色々と妄想できて面白いレポートだと思う。

ただその世界は、そう遠くはない世界であり、またその世界が到来したら、自分達でルールを作って行かなければならない世界。

さて皆さん、心の準備はいいですか。

レッツ、ガバナンス~‼

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