そんなちょっと詳しく知りたい方向けに、まとめてみました。今回は【3つの視点編】です。
この記事の目次
Q1:「人材版伊藤レポート2.0」に何が書かれているの?
20/9月に「人材版伊藤レポート」、そして22/5月に「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。
簡単にいうと、
「人材版伊藤レポート」:これからの「人材戦略の在り方」について提唱
「人材版藤レポート2.0」:「人材版伊藤レポート」で提唱した「3P・5Fモデル」の実現をガイドするようなアイディアや施策・視点を提示
が書かれています。
2020年9月に公表された「人材版伊藤レポート」で提唱された、これからの「人材戦略」モデルのこと。
これからの「人材戦略」の、主な5つの構成要素(Common Factor)と、その実効性を確保する3つの視点(Perspective)を略して「3P・5Fモデル」と呼んでいます。
【3P・5Fモデル】
「人材版伊藤レポート」公表後、この「3P・5Fモデル」の進捗具合を調査した結果、
「3P・5Fモデル」の重要性は理解したが、実際に取り組もうとして足踏みしている企業が多い
という結果に。
そこで、日本企業を「人材戦略」で足踏みさせないために、「人材版伊藤レポート2.0」で、さまざまな「取組」とそれに対する「工夫」を公表。
なお、「人材版伊藤レポート」「人材版伊藤レポート2.0」の概要について知りたい方はこちらをどうぞ。
Q2:「人材版伊藤レポート2.0」のレポート構成は?
本レポートでは、3つの視点と5つの共通要素ごとに、取組がたくさん書かれています。
なにが言いたいかというと、
項目数が多いので、最初に全体像を把握してから中身に入っていった方がいい
ということで、全体像はこちら。
【3つの視点】
【5つの共通要素】
で、実はこれが本当の全体像ではないのです。。。
「人材版伊藤レポート2.0」には、上図の「取組」毎に、「工夫」を提示してくれているのです。
つまり、項目がまだまだあるということ。
で、「工夫」がたくさん記載されているわけですが、大前提として、
そもそも「工夫」が必要ということは、そこに何か問題や悩みがある
ってことですよね?
そこで、本記事では、「悩み」とそれに対する「工夫」という流れで、「人材版伊藤レポート2.0」の「工夫」をまとめてみました。
今回は【3つの視点】についてです。
Q3:【視点1】経営戦略と人材戦略を連動させるための取組と工夫
取組一覧
(1)CHROの設置
(2)全社的経営課題の抽出
(3)KPIの設定、背景、理由の説明
(4)人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティの向上
(5)サクセッションプランの具体的なプログラム化
(6)指名委員会委員長への社外取締役の登用
(7)役員報酬への人材に関するKPIの繁栄
(1)CHROの設置
取組 | 理由 |
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CHROを設置 | 経営戦略と人材戦略の連動に関する責任者を明確にするため |
- CHROを設置しても、いままでの人事部との違いがわからなくない?
- 【工夫1】従来の人事部との違いを明確にして、それを言語化することで、違いを理解してもらう
- CHROが策定する人材戦略は、事業戦略と連動して策定されるもの。つまり、事業戦略を理解できる人が必要なのはわかるけど、そんな人、そう簡単にでてこない。
- 【工夫2】ポテンシャルのある人材を、事業側で成果責任を担う経験を積めるポジションに計画的に配置して、育成していく
- CHRO候補者に、事業経験を積ませる必要性から、人事部と事業部との連携が欠かせないのはわかるが、それを実行しようとすると過去の慣習が邪魔をする可能性がある
- 【工夫3】意識改革するしかないので、経営陣がCHRO設置の重要性や各部門への協力事項についてメッセージを発信するなど支援する
(2)全社的経営課題の抽出
取組 | 理由 |
---|---|
「経営戦略」実現に障害となる人材面の課題の整理 | 「人材戦略」が「経営戦略」を支えるためには、人材に関する自社固有の課題について経営陣が共通の認識を持つ必要性があるから |
- 経営陣が抱いている事業の課題と人材面の課題はどのように抽出すればいいの?
- 【工夫1】まずは、CHROが経営陣に質問をして、CHROが主体的に経営陣の考えに対する理解を深めていく
- 課題は膨大であり、リソース的に、全てを解決することはできない
- 【工夫2】優先的に取り組む課題を議論し、解決に時間がかかる課題は、必要な時間を想定して、社員・投資家に説明する
(3)KPIの設定、背景、理由の説明
取組 | 理由 |
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KPIの設定 | 「人材戦略」を作成し、進捗に応じて迅速に軌道修正を実施していくためには、KPIを設定し、その推移を確認する必要があるから |
KPIの設定の背景・理由を従業員・投資家に説明 | 従業員に説明することで、社員の行動に変化を与える可能性があり、また投資家へは「人材戦略」が「経営戦略」と連動していることから企業価値向上につながっているとアピールできるため |
- KPIの設定って言っても、競合他社が設定しているKPIを開示しておけばいいのでは?
- 【工夫1】開示するKPIは経営の意思を反映しているKPIである必要がある。企業価値向上のストーリーは各社異なる、つまりその達成に必要なKPIは必然的に、自社固有のKPIになるはず
- 自社の企業理念や企業文化の浸透度、自社戦略の理解度など、定性的な重要な指標もあるのではないか
- 【工夫2】重要な予兆の把握という意味において、可能な範囲で定量化を試みて、推移を把握できるようにする
- 必要性や重要性を考慮の上、KPIを設定しているが、KPIが複数ある場合、社員や投資家へどのように説明すればよいか
- 【工夫3】「全社的な経営課題の抽出」において検討した優先順位に沿って、優先順位の高いKPIから取り組む姿勢を社員・投資家に打ち出す
(4)人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティの向上
取組 | 理由 |
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人事部と事業部の役割を検証しながら明確化 | 企業価値全体の価値向上と事業ごとの価値向上それぞれを両立させる必要がある。そのために、両者の役割分担を検証しながら明確化することで、「経営戦略」と「人材戦略」の連動をより進めやすくするため。 例えば、経営人材の育成や企業文化の浸透など全社レベルで行う人事施策は、人事部門が行い、事業価値最大化を目的とする、外部人材の採用や部門内再配置などは、事業部門が責任を負い、人事部門がサポートするなど。 |
事業部門経験を持つ人事部の社員育成 | 多くの企業で、人事部門が事業部門を十分サポートできるほどの余力(人員や能力)がないため、支援を有効なものとするために人事部門の支援機能を強化する必要があるから |
- そもそも人事部門の社員に、どうすれば事業の理解を深めることができるのか
- 【工夫1】人事部門内に、各事業担当のポジション(HRBP)を設置し、事業への理解を促す。
【工夫2】事業・人事両部門間の相互の異動を実施することで、事業の理解を有する人事社員の育成につながる
- 人事部の役割である企業価値全体の最大化のために、何をすればよいのか
- 【工夫3】企業価値全体の最大化のために必要な、人事部内のポジションにおける役割を見直し、必要な能力開発を行う。
例えば、経営人材の育成や企業文化の浸透等全社レベルで行う人事施策を担うポジション、人事運営の効率化のための、勤怠管理や給与計算等の業務を集中的に行うポジションなど
(5)サクセッションプランの具体的なプログラム化
取組 | 理由 |
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20・30代からの経営人材選抜、グローバル水準のリーダーシップ開発 | 経営人材育成の開始時期は、一般的に欧米企業に比べると日本企業は遅い傾向にある。そのため、経営人材の質の向上のためにも、早い段階から挑戦する機会を準備する必要があるため |
候補者リストに、経営者経験を持つ者を含める | CEOの経営ポジションで必要な能力は、企業全体を統括する経験でしか磨かれないから |
- どうやって候補者を選抜すればいいの?
- 【工夫1】過去の成果に注目する方法と、潜在的な可能性に注目する方法を組み合わせて、候補者を特定する。そのために、自社の経営人材に特に求めるべき行動特性、今後経営人材として開花させる上で必要となる資質をあらかじめ特定しておく。
- 経営人材候補の能力を開花させるためにはどうすればいいか。
- 【工夫2】アサイメントする際には、ミッションを明確にする。また、そのミッションは、候補者の高く評価されている能力を高度に発揮させる内容であり、また候補者の課題克服に役立つ内容を計画する。また、候補者自身の成長に向けてアサインメントに取り組む環境を整えてあげる必要がある。
その上で、PL,BS,CFの財務面、人材配置や育成といった人事面に関する責任も課すか検討する。
- 経営者の経験を持つ人なんてどうやって増やすのか
- 【工夫3】本社の役員経験者を関連子会社の経営ポジションに配置する慣行をやめ、将来の経営人材候補を配置する
【工夫4】ジョイントベンチャーやコーポレートベンチャーキャピタル投資先が関連子会社にある場合は、将来の経営人材候補を経営ポジションに配置する
【工夫5】アルムナイとの持続的な関係を構築する
(6)指名委員会委員長への社外取締役の登用
取組 | 理由 |
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十分な責任感を持った社外取締役を指名委員会委員長に登用する | 社内の論理に過度にとらわれない次期経営者の指名を行おうとする意思を現わすことができるから |
- 社外取締役にどうやって十分な責任感を持たせるの?
- 【工夫1】指名委員会委員長の責任を、具体的に設定。
例えば、次期経営者の登用に当たっての基準やプロセスが適切か検証すること、また経営人材の育成や登用について改善すべき点があれば提言を行うこと自体を責任として明示するなど。
- 月1回の取締役会にしか来ない社外取締役に、次期経営人材を判断することができるの?
- 【工夫2】月1回の取締役会だけで判断するには限界があるため、CHROが社外取締役に、経営戦略、人材戦略、抱える課題を十分に説明する。
また、経営者としての適性を理解するために、経営人材候補との接点を増やすことを検討する。
(7)役員報酬への人材に関するKPIの反映
取組 | 理由 |
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役員報酬の一部を、人材に関するKPIに連動する制度を導入 | ・経営陣の人材戦略に対するコミットメントを高めることができる ・人材戦略に対する、社員に対する説得力を高めることができる ・投資家が、経営陣を評価する指標の1つとなる |
- 無形資産って、人的資本以外にもあるけど、人的資本にかかるKPIに連動する制度でいいの?
- 【工夫1】報酬が関連指標と連動する制度導入にあたっては、他の無形資産の重要性とのバランスを考慮の上、制度設計する。
- 導入するのはいいけど、報酬の変動幅ってどうやって設定するの?
- 【工夫2】変動する以上、KPIの成果がどうやって報酬に連動するのか明確にし開示する必要がある。
ただし、変動幅などは制度設計時点では判断が難しいため、毎期の報酬委員会で、インセンティブカーブの在り方を検証し、次年度の制度改定の議論に繋げることを、あらかじめ織り込んで設計する。
Q4:【視点2】「As is- To beギャップ」の定量把握のための取組と工夫
取組一覧
(1)人事情報基盤の整備
(2)動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
(3)定量把握する項目の一覧化
(1)人事情報基盤の整備
取組 | 理由 |
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人材関連の改善KPIに関する情報や、社員のスキル・経験等の特性を示す情報を常に整備する | 人材戦略の実現に関する意思決定をタイムリーに実施するため |
- 膨大な情報を、タイムリーにキャッチアップする仕組みなんて整備できないよ
- 【工夫1】最初から包括的な人事情報基盤の整備に着手するのではなく、スモールスタートでいいので、自社が重視するKPIに直接関連する情報の整備を優先して実施する
- 優先順位って、どんな風につけるの?
- 【工夫2】グローバル展開や海外売上高比率の向上を重要な経営目標に掲げている企業であれば、
海外拠点の人材育成やエンゲージメントに関するKPIに紐づけられるように、現地拠点の人事情報の把握や体系化を優先的に進めるなど
(2)動的な人材ポートフォリオ計画を踏まえた目標や達成までの期間の設定
取組 | 理由 |
---|---|
達成までの期間を設定し、現状とあるべき状態のギャップを適時に把握し、迅速に対策を講じる | As is-To beギャップは短期間では解消できないので、ギャップを埋める取組を継続していく姿勢が必要だから |
- 目標や期間はどんな風に設定すればいいの?
- 【工夫1】目指すべき人物像(To be)を、〇年以内に、〇〇人、生み出すなど、より具体的に定義すること
【工夫2】経営環境は変わるし、進捗が想定と乖離することは往々にしてあるので、KPI、目標、達成期間を柔軟に見直すことを前提としておく
(3)定量把握する項目の一覧化
取組 | 理由 |
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人材に関するKPIの重要なものを絞り、一覧化しておく | 様々なKPIが設定されると「選択と集中」が困難になるから |
- 複数あるKPIはどれくらい「選択と集中」した方がいいの?
- 【工夫1】紙1枚に記載できる程度、かつ、その紙には、ギャップの改善状況や、実施している施策も併せて整理する
Q5:【視点3】企業文化への定着のための取組と工夫
取組一覧
(1)企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義
(2)社員の具体的な行動や姿勢の紐づけ
(3)CEO・CHROとの社員の対話の場の設定
(1)企業理念、企業の存在意義、企業文化の定義
取組 | 理由 |
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企業理念、企業の存在意義、企業文化を定義付ける | 近年のサステナビリティやESGに関する関心の高まりから、改めて企業が社会や環境にどのように貢献していくのか再考し、自社の競争優位を支えている社員の行動や思考の傾向を企業文化に浸透させ、更に人材戦略で進化させることで、企業の競争力向上に繋げることが可能だから |
- 誰が主導で定義を考えるの?
- 【工夫1】CEOとCHROが主導しながら、経営陣や取締役会を中心に議論する。そして、最終的にはCEOやCHROが自ら投資家に説明することを想定
(2)社員の具体的な行動や姿勢の紐づけ
取組 | 理由 |
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企業が重視する行動や姿勢が社員に浸透するよう、社員の任用・昇格・報酬・表彰等の仕組みを検討する | 人材戦略が企業文化へ定着し、実際に社員がそれを体現しなければ、絵に描いた餅でしかないから |
- どうやって定着させるの?
- 【工夫1】社員の言動や姿勢が企業文化と合致しているか、ヒアリング等により定期的に定点観測を実施して状況を把握する
【工夫2】社員の登用や報酬の判断軸として企業文化の要素を取り込み、それを従業員に説明して重要性を理解させる
【工夫3】企業文化を体現する優れた行動の事例を共有する。だだし、社員の主体的・自律的な行動の尊重が前提
(3)CEO・CHROとの社員の対話の場の設定
取組 | 理由 |
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どのように企業文化を体現し定着させていくために、CEO・CHROが、社員と直接対話をする機会を設ける | 社員がCEO・CHROに質問する機会は貴重であり、従業員自身が企業文化に対して主体的に考えるようになるから |
- 社員と話をするだけで、本当に企業文化は定着するの?
- 【工夫1】「対話」をすることが重要。つまり、従業員が質問するだけでなく、CEO・CHROも人材戦略を企業文化に定着させていく決意を社員にコミットしていくことで、企業文化の考え方や意気込みを従業員に浸透させていく機会と捉えるべき。
最後に一言
今回は、「人材版伊藤レポート2.0」の3つの視点に関する、「取組」とそれに対する「工夫」を見てきました。
いかがでしたでしょう。
これだけでも、かなりのボリュームがありましたね。
言い訳ではないのですが、これでも、かなり簡略化したつもりです。。。
が、まだ「5つの共通要素」に関する取組と工夫がありますので。。。関連リンクよりご覧ください。
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